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城の崎にて「コウノトリ」と共生する豊岡市

 絶滅した「コウノトリ」を復活させ、街のシンボルにしたばかりでなく休耕田を「農薬に頼らない米作り」に変えた豊岡市。コウノトリは肉食で1日500グラムの生きた餌を食べるとは驚きです。田圃の傍にある電柱の上に巣を作るのも「食住近接」というわけです。

 鳥だけにどこへでも飛んでいけるのに、彼らが豊岡市に住み続けるのは、こうした「共生」の努力の賜物なのでしょう。ちなみに、酒米は「フクノハナ」というブランドで販売されています。

 ところで、城崎温泉といえば志賀直哉の「城の崎にて」で有名になりました。そこで、コウノトリ但馬空港へ向かうバスの待ち合わせ時間を使って城崎文芸館に立ち寄りました。目に留まったのは、「野尻抱影様」というサインのある本。野尻抱影は文学者でありながら、宇宙や星に関する造詣が深く、今では惑星→準惑星になってしまった「冥王星」の名付け親として知られています。私が「天文」に興味を持ったのも「宇宙のなぞ」(偕成社1956年)という著書の影響でした。当時(小学低学年)は天文学者(科学者)だと思っていました。「天文学者になる」と言って、父親に「どうやって暮らしていけるんだ」と本気でたしなめられましたこともあります。志賀直哉全集の中に「野尻抱影君へ」というサブタイトルのついた「いたづら」という作品が収められています。超特急で読みました。

 男性の友人に架空の女性からのラブレターを書いて呼び出し、すっぽかす。騙された友人は、あたかも「素敵な女性に逢えた」ような作り話をする。これが何度も何度も続いて~とても、面白かった。

 巻末に解説がありました。この作品のネタを与えたのが野尻抱影だったのです。作品の中にギリシャ神話のエンディミオンの話が出てくるところが、いかにも野尻抱影らしい。「玉手箱を忘れた太郎」を世に出した作家(笑)としては、実に興味深い発見でした。