玉手箱を忘れた太郎(はじめに)


 ある日、電車に乗ると乗客の8割がスマホをいじっていました。本や新聞を開いている人はほとんどいません。「読書離れ」「活字離れ」が進んでいるのです。

 そのスマホのGPSは、2万キロメートル上空の衛星を使って、地上との距離から受信機の位置を計算します。衛星から時刻T1に発せられた電波が時刻T2に届いたら、(T2―T1)×(光速)で、受信機までの距離を求めることができます。理論上は三つの衛星、実際には四つ以上の衛星との距離から受信機の位置を割り出しているのです。 

 問題は、秒速4キロメートルで飛ぶ衛星の時間が一千億分の8・4だけ遅くなる点です。秒速30万キロメートルの光速には、はるか及ばない速度ですが、それでも特殊相対性理論による「時間の遅れ」が生じます。付け加えると、時間は重力の影響を受けるので(一般相対性理論)、地上より重力の小さい衛星では、時間が百億分の5・27だけ早く進みます。結局、衛星を使ったGPSでは、この二つの時間を補正しないと、計算上の位置と実際の位置が一日9キロメートルもずれてしまうのです。

 この「時間の遅れ」を、浦島太郎伝説になぞらえて「ウラシマ効果」と呼ぶことがあります。

 むかしむかし、浦島は助けたカメに連れられて、150光年彼方にある惑星αを三年かけて巡る宇宙旅行をプレゼントされます。しかし、帰る地球が三百年後の地球だという重要事項を告知しなかったのは、明らかに旅行業法違反です。

 しかし、それを承知の上で、カメに出会ったら、どうしよう?電車を降りたとき、私の浦島伝説が始まっていました。

 

(都政新報2021年4月2日号「連載に当たって」より)

  

玉手箱を忘れた太郎(あらすじ)


■第1章 時間旅行

子ガメを助けた私は龍宮城への旅に出ますが、300日後の世界に戻れるようお願いします。しかし、龍宮城に行かなかった私は玉手箱をもらうことも、300日後の自分 自身に会うこともできませんでした。

■第2章 玉手箱の謎

「玉手箱を忘れた太郎」と呼ばれた私は、一年後、小林青年(タイムトラベラー)と二人で龍宮城に向かいます。しかし、青年を残し一人で帰った世界は3年後でした。青年は私を利用して龍宮城に帰還したのです。

■第3章 龍宮城の謎

「玉手箱をあけてしまった二人目の太郎」となった私は、新聞記者の秦女史と一緒に、未開封の玉手箱を探し出し龍宮城の謎に迫ります。

■第4章 龍宮城での再会

三度目の龍宮城で青年との再会を果たした私は、秦女史と一緒に、300年の時間旅行に出発します。

■第5章 300年後の世界

私は、秦女史の父親が20年前、龍宮城に行ったまま帰って来なかったことを知ります。私と秦女史は子ガメシステムを使って300年後の世界にいる父親に再会します。

■第6章 ひとりぼっち

玉手箱を忘れた私は、ひとり、300年後の世界に残されてしまいます。

■第7章 300年後からの生還

秦女史の機転で私は子ガメを助け、300年後の世界から無事、生還します。

■第8章 不可逆な事故

交通事故で亡くなった秦女史のお父さんを再び取り戻すため、私と秦女史は299年後の世界へ向かいます。

■第9章 死からの生還

お父さんを一日前の世界に連れ戻します。

■第10章 歴史の修復

歴史の修復を行い、現在の世界に生還します。

■第11章 カメ族の謎

カメ族は7000万年前、地球にやってきた宇宙人の末裔でした。いま、解き明かされるカメ族の謎。

■第12章 火球の謎

ミオ族(カメ族の分派)の過激派が人類と結託しノア族(カメ族の分派)の住む火星を征服しようと企みます。

■第13章 悠久の時を超えて

童話なので「めでたし、めでたし」で終わります。

安心してお読みください。       おしまい