童話の墓場 1丁目1番地


■おふろのおばけ■

 お父さんは「つかれがとれる」、お母さんは「気もちいい」って言うけど、ぼくはおふろがきらいです。

 夏は、おふろからでると、暑くて汗がとまりません。

 冬は、おふろに入る前、はだかになると寒いです。

 だいたい、ゆぶねにつかっても、ひとりで、何もやることがありません。

「マサオ、はやく、入りなさいよ」

 きょうも、お母さんの声がしました。

「いーち、にーい、さーん」

 ゆぶねには、百、数えるまで入るやくそくですが、十から先は、「じゅう、にじゅう、さんじゅう」と数えて、いつも早く出てしまいます。

 ある日、三十までかぞえたとき、白いゆげがおばけになって、こう言いました。

「ずるしてはいけませんよ」

「だって、やること、ないんだもの」とぼくが言うと、おばけが言いました。

「じゃあ、顔から出るゆげって、なーんだ」

 ぼくは、少し考えてから、言いました。

「まゆげ」

「せいかい。では、おふろに入っている貝って、どんな貝かな?」

「あったかい」

「せいかい。こんどは、マサオくんが、もんだいを考えてみてください」

 ぼくは、おふろの中を見まわし、しばらく考えて、こう言いました。

「きれいにすればするほど、小さくなるものって、なーんだ」

 すると、おふろのおばけは、

「答えは、あしたね」と言って、きえてしまいました。

 おふろから出たぼくに、お母さんが言いました。

「きょうは、おふろ、長かったのね」

 ぼくは、おふろに入るのが、楽しみになりました。             

                     おしまい

■お墓に入った理由

 もちろん、おばけの出した「なぞなぞ」の答えは「石鹸」です。しかし、今どき、ご家庭のお風呂に石鹸などありませんよね。昭和時代の童話でした。

エッセイの墓場 3丁目1番地


■パンダ以外はお断り~パンダ湯~■ (幻の78号)

「パンダ銭湯」(tupera tupera作 絵本館)は、動物園の人気者、パンダの子どもが父パンダと母パンダと一緒に銭湯に行くというお話です。

 入浴料は、大人500円、小人100円で、中人はなく、やや高めの設定。それに比べ、サササイダーの100円は良心的なお値段。番台には「パンダ以外の入店は、固くお断りしています。パンダ湯」と注意書きがあります。

そうです、ここはパンダ専用の銭湯なのです。

「脱いだらちゃんとカゴに入れろよ」(父パンダ)

 黒くて身丈の短い長袖シャツと、黒い靴下を脱いで、黒いサングラスを外すと、なんと、パンダの正体は真っ白なシロクマでした。

 体を洗ってお湯を流すと耳まで真っ白に。

 湯船は真っ白なパンダ(シロクマ)でいっぱいになりました。

 パンダの父子はお風呂を出て、黒くて身丈の短い長袖シャツを着て、黒い靴下を履いて、黒いサングラスをかけ、耳に黒いワックスを塗ります。すると、パンダそっくりになりました。

 銭湯の出口で母パンダが待っていました。

 並んで帰る3頭の後姿をよく見ると、父パンダの耳が白いままです。ワックスを塗り忘れたのです。

 2019年、中国四川省の自然保護区内で全身白いパンダが発見されました。

 世界で初めて発見された白いパンダですが、熱い湯に浸かって汗をかき、裸で涼んでいたパンダに違いありません。

                                                        おしまい

 ■お墓に入った理由

 2018年10月(67号)から2021年4月(77号)まで地域コミュニティ冊子「銭湯といえば足立」(季刊)にシリーズで寄稿していました。本編は、教育長を退任することになって、日の目を見なかった幻の78号です。

  なぜか、童話の墓場も「おふろのおばけ」で、お風呂つながりになってしまいました(笑)。