童話の墓場 1丁目5番地


■空は何色なの?■

 病室に、おともだちが来ました。

 名前は、レン。

 わたしが、名前を付けました。

 レンは、だれにも見えません。

 レンは、わたしとだけお話しすることができます。

 レンは、何でもかなえてくれるおともだちです。

「ねえ、レン、空は何色なの?」

「天気のいい日は青だね」

「青って、海や川の色ね」

「そうだよ」

「クミちゃんのすきな色は、なに色?」

「白。光の色。先生や看護婦さんが着ている白衣の色だわ。空が白かったら、どうなるのかしら?」

「じゃあ、空を白にしてみよう」

 レンはそう言って、空を白色にかえました。

「雲が見えなくなるのね」

「雲は白いからね」

「黄色にかえてよ。黄色はレモンのようなすっぱい色ね」

「じゃあ、黄色にしてみよう」

 レンはそう言って、空を黄色にかえました。

「お日さまが見えなくなるのね」

「お日さまは黄色いからね」

「黄色はあたたかい色ね。緑にしたらどうかしら。緑は生きている植物の色ね」

「じゃあ、緑色にしてみよう」

 レンはそう言って、空を緑色にかえました。

「木の葉が見えなくなるのね」

「木の葉は緑色だからね」

「草のかおりがするわ。それに、木の葉のざわめく音。草や木の葉は、かれると茶色にかわるのね。」

「そうだよ。かれて土になってしまうんだ」

「だから茶色は土の色なのね」

「そうだよ」

「食事やおやつのときに飲むお茶は茶色なのね」

「こう茶やウーロン茶は茶色だけど、緑茶は緑色なんだ」

「お茶という名前なのに、緑色なんておかしいわね」

「だから、わざわざ緑茶とよんでいるんだよ」

「今度は、はい色にかえてよ。はい色は固いコンリートの色ね」

「じゃあ、はい色にしてみよう」

 レンはそう言って、空をはい色にかえました。

「雨の日みたいになるのね」

「雨は、はい色だからね」

「雨の日は、外へ出られないから、きらい」

「でも、雨がふらないと植物は育たないし、水も飲めなくなるよ」

「そうか。だったら、もっと雨音が楽しい音になるといいな」

「そうしたら、雨も好きになれる?」

「好きになれると思うわ。今度は赤にかえてよ。赤は、もえている炎の色ね」

「じゃあ、赤にしてみよう」

 レンはそう言って、空を赤にかえました。

「夕やけみたいになるのね」

「海にしずむお日さまが赤くなるからさ」

「救急車のサイレンの音が聞こえるわ。サイレンの色は、危険を知らせる赤ね。今度は黒にかえてよ。黒は冷たい鉄の色ね」

「じゃあ、黒にしてみよう」

 レンはそう言って、空を黒にかえました。

「夜になったのね」

「夜は、お月さまや、お星さまがきらきら光るためにあるのさ」

「わたしには見えないの。でも、ときどき光りが通りすぎるわ」

「流れ星みたいだね」

「お星さまが、ときどき落ちてくる。あの流れ星ね」

「ビルや街灯の光が強くて空が白いと、星も流れ星も、よく見えなくなるんだ」

「ねえ、レン。空は、本当は何色なの?」

「空はね、どんな色にもなるんだよ」

 レンはそう言って、病室の窓をしめました。

「ねえ、レン、あなたは何色なの?」

「さあ、何色だろう。当ててごらん」

「青」

「どうして?」

「空のように広くて大きいから」

「そんなに大きくないよ」

「信号機の赤は、危険だから止まれ。青は進めでしょう?」

「そうだね」

「青は安心できる色だわ。ねえ、レン」

「なーに?」

「青い空と青い海のさかいが見たいなあ」

「空と海のさかいを水平線って言うんだよ」

「同じ青でも違いがあるのね」

「そうだよ」

「風と波がくっつくと、どんな音がするのかしら」

「じゃあ、明日、行ってみよう。おやすみ、クミちゃん」

「おやすみ、レン」          おしまい

 

■お墓に入った理由■

 眼の見えない人の世界をもっとよく知らなくては、、と思いました。 

童話の墓場 1丁目4番地


■白いケーキとオレンジジュース■

 同じクラスのれんくんは、いつもノートに絵を描いています。

「見せてよ」

「いやだよう」

「それは、雲?」

「雲じゃない、お化けだよう」

 雲には大きな目と口があり、頭に毛が三本、生えていました。

 ある日、誰かが言いました。

「れんくんが、また、おもらしした~」

 先生が言いました。

「だれか、一緒に帰ってやれ」

 ぼくは、一番に手を上げました。

 れんくんのお家は、大きな工場の中にあって、いくつもお部屋がある、とても立派なお家でした。れんくんと一緒に帰るとイチゴののった白いケーキと、オレンジ色の甘くてすっぱいジュースをいただくことができます。

 この秘密を守るために、ぼくは、いつも一番に手を上げていました。

「れんくんが、また、おもらしした~」

 先生が言いました。

「だれか、いっしょに帰ってやれ」

 ぼくは、また、真っ先に手を上げました。

 今日は、ぼくと、れんくんと、れんくんの妹と、三人でケーキとジュースをいただきました。

 ある日、ぼくは熱を出して学校を休みました。

 数日後、学校へ行くと、ケーキとジュースの秘密を、クラスのみんなが知っていました。

 れんくんがおもらしをして、ほかのだれかと一緒に帰ったのです。

 その日から、先生は、

「だれか、一緒に帰ってやれ」と言わなくなりました。

 今日も、れんくんはノートに絵を描いていました。

「見せてよ」

「いやだよう」

 それは、お化けではなくて、三人でケ-キを食べている絵でした。

 ぼくは、大きなフォークを持っていました。

 れんくんの妹は、長いストローをくわえていました。

 れんくんは、うれしそうに笑っていました。

 ある日、ぼくは熱を出して学校を休みました。

 数日後、学校へ行くと、れんくんがいません。

 特別支援学校に転校したのです。

 ぼくは、れんくんのお家に行きました。

 大きな工場も、れんくんのお家も解体作業が始まっていました。

 ぼくは、あの絵をもらっておけばよかったと思いました。

                  おしまい

■お墓に入った理由■

 れんくん(仮名)が描いていたのは「お化けのQ太郎」(BY 藤子不二雄)です。私が小学生のころは、こんなふうに誰でも一緒に過ごす、こんなインクルーシブな日常がありました。

 しばらくして、特殊学級→特別支援学級→特別支援学校というように、どんどん高くて遠い障壁ができてしまったような気がします。子どものころは不思議でした。でも、短い期間でしたが同じ教室に通っていた時期があって、強く印象に残っている人物の一人です。

 彼と彼の妹は今頃、どうされているのでしょうか?

 そうでした、どうしてお墓に入ることになったのか?

 お話がリアル過ぎるからでしょう。

 お話は、もっとメルヘンでないと・・・(笑)。  


■墓場の道しるべ■

1丁目1番地 おふろのお化け

1丁目2番地 百科事典のひみつ

1丁目3番地 青色の運動靴

1丁目4番地 白いケーキとオレンジジュース

1丁目5番地 空は何色なの?

1丁目6番地 ひともっこ山の真相

1丁目7番地 カラスの恩返し

 ■エッセイの墓場■

3丁目1番地 パンダ以外はお断り~パンダ湯~

3丁目2番地 五十年後のリベンジ

3丁目3番地 ハッピーエンドが好き

3丁目4番地 大人に近づいた日