■空は何色なの?■
病室に、おともだちが来ました。
名前は、レン。
わたしが、名前を付けました。
レンは、だれにも見えません。
レンは、わたしとだけお話しすることができます。
レンは、何でもかなえてくれるおともだちです。
「ねえ、レン、空は何色なの?」
「天気のいい日は青だね」
「青って、海や川の色ね」
「そうだよ」
「クミちゃんのすきな色は、なに色?」
「白。光の色。先生や看護婦さんが着ている白衣の色だわ。空が白かったら、どうなるのかしら?」
「じゃあ、空を白にしてみよう」
レンはそう言って、空を白色にかえました。
「雲が見えなくなるのね」
「雲は白いからね」
「黄色にかえてよ。黄色はレモンのようなすっぱい色ね」
「じゃあ、黄色にしてみよう」
レンはそう言って、空を黄色にかえました。
「お日さまが見えなくなるのね」
「お日さまは黄色いからね」
「黄色はあたたかい色ね。緑にしたらどうかしら。緑は生きている植物の色ね」
「じゃあ、緑色にしてみよう」
レンはそう言って、空を緑色にかえました。
「木の葉が見えなくなるのね」
「木の葉は緑色だからね」
「草のかおりがするわ。それに、木の葉のざわめく音。草や木の葉は、かれると茶色にかわるのね。」
「そうだよ。かれて土になってしまうんだ」
「だから茶色は土の色なのね」
「そうだよ」
「食事やおやつのときに飲むお茶は茶色なのね」
「こう茶やウーロン茶は茶色だけど、緑茶は緑色なんだ」
「お茶という名前なのに、緑色なんておかしいわね」
「だから、わざわざ緑茶とよんでいるんだよ」
「今度は、はい色にかえてよ。はい色は固いコンリートの色ね」
「じゃあ、はい色にしてみよう」
レンはそう言って、空をはい色にかえました。
「雨の日みたいになるのね」
「雨は、はい色だからね」
「雨の日は、外へ出られないから、きらい」
「でも、雨がふらないと植物は育たないし、水も飲めなくなるよ」
「そうか。だったら、もっと雨音が楽しい音になるといいな」
「そうしたら、雨も好きになれる?」
「好きになれると思うわ。今度は赤にかえてよ。赤は、もえている炎の色ね」
「じゃあ、赤にしてみよう」
レンはそう言って、空を赤にかえました。
「夕やけみたいになるのね」
「海にしずむお日さまが赤くなるからさ」
「救急車のサイレンの音が聞こえるわ。サイレンの色は、危険を知らせる赤ね。今度は黒にかえてよ。黒は冷たい鉄の色ね」
「じゃあ、黒にしてみよう」
レンはそう言って、空を黒にかえました。
「夜になったのね」
「夜は、お月さまや、お星さまがきらきら光るためにあるのさ」
「わたしには見えないの。でも、ときどき光りが通りすぎるわ」
「流れ星みたいだね」
「お星さまが、ときどき落ちてくる。あの流れ星ね」
「ビルや街灯の光が強くて空が白いと、星も流れ星も、よく見えなくなるんだ」
「ねえ、レン。空は、本当は何色なの?」
「空はね、どんな色にもなるんだよ」
レンはそう言って、病室の窓をしめました。
「ねえ、レン、あなたは何色なの?」
「さあ、何色だろう。当ててごらん」
「青」
「どうして?」
「空のように広くて大きいから」
「そんなに大きくないよ」
「信号機の赤は、危険だから止まれ。青は進めでしょう?」
「そうだね」
「青は安心できる色だわ。ねえ、レン」
「なーに?」
「青い空と青い海のさかいが見たいなあ」
「空と海のさかいを水平線って言うんだよ」
「同じ青でも違いがあるのね」
「そうだよ」
「風と波がくっつくと、どんな音がするのかしら」
「じゃあ、明日、行ってみよう。おやすみ、クミちゃん」
「おやすみ、レン」 おしまい
■お墓に入った理由■
眼の見えない人の世界をもっとよく知らなくては、、と思いました。
■白いケーキとオレンジジュース■
同じクラスのれんくんは、いつもノートに絵を描いています。
「見せてよ」
「いやだよう」
「それは、雲?」
「雲じゃない、お化けだよう」
雲には大きな目と口があり、頭に毛が三本、生えていました。
ある日、誰かが言いました。
「れんくんが、また、おもらしした~」
先生が言いました。
「だれか、一緒に帰ってやれ」
ぼくは、一番に手を上げました。
れんくんのお家は、大きな工場の中にあって、いくつもお部屋がある、とても立派なお家でした。れんくんと一緒に帰るとイチゴののった白いケーキと、オレンジ色の甘くてすっぱいジュースをいただくことができます。
この秘密を守るために、ぼくは、いつも一番に手を上げていました。
「れんくんが、また、おもらしした~」
先生が言いました。
「だれか、いっしょに帰ってやれ」
ぼくは、また、真っ先に手を上げました。
今日は、ぼくと、れんくんと、れんくんの妹と、三人でケーキとジュースをいただきました。
ある日、ぼくは熱を出して学校を休みました。
数日後、学校へ行くと、ケーキとジュースの秘密を、クラスのみんなが知っていました。
れんくんがおもらしをして、ほかのだれかと一緒に帰ったのです。
その日から、先生は、
「だれか、一緒に帰ってやれ」と言わなくなりました。
今日も、れんくんはノートに絵を描いていました。
「見せてよ」
「いやだよう」
それは、お化けではなくて、三人でケ-キを食べている絵でした。
ぼくは、大きなフォークを持っていました。
れんくんの妹は、長いストローをくわえていました。
れんくんは、うれしそうに笑っていました。
ある日、ぼくは熱を出して学校を休みました。
数日後、学校へ行くと、れんくんがいません。
特別支援学校に転校したのです。
ぼくは、れんくんのお家に行きました。
大きな工場も、れんくんのお家も解体作業が始まっていました。
ぼくは、あの絵をもらっておけばよかったと思いました。
おしまい
■お墓に入った理由■
れんくん(仮名)が描いていたのは「お化けのQ太郎」(BY 藤子不二雄)です。私が小学生のころは、こんなふうに誰でも一緒に過ごす、こんなインクルーシブな日常がありました。
しばらくして、特殊学級→特別支援学級→特別支援学校というように、どんどん高くて遠い障壁ができてしまったような気がします。子どものころは不思議でした。でも、短い期間でしたが同じ教室に通っていた時期があって、強く印象に残っている人物の一人です。
彼と彼の妹は今頃、どうされているのでしょうか?
そうでした、どうしてお墓に入ることになったのか?
お話がリアル過ぎるからでしょう。
お話は、もっとメルヘンでないと・・・(笑)。
■墓場の道しるべ■
1丁目1番地 おふろのお化け
1丁目2番地 百科事典のひみつ
1丁目3番地 青色の運動靴
1丁目4番地 白いケーキとオレンジジュース
1丁目5番地 空は何色なの?
1丁目6番地 ひともっこ山の真相
1丁目7番地 カラスの恩返し
■エッセイの墓場■
3丁目1番地 パンダ以外はお断り~パンダ湯~
3丁目2番地 五十年後のリベンジ
3丁目3番地 ハッピーエンドが好き
3丁目4番地 大人に近づいた日